日本一般用医薬品連合会 - 一般用医薬品業界の連携を強化し、様々な課題について取り組みを進めます。

今回から日本一般用医薬品連合会の下での広告審査会となり、連合会を構成する各業界団体から選ばれた代表の方々が新たに委員に加わることになりました。委員の拡大により広告審査の視野が拡がることを歓迎するとともに、出身団体所属企業の目先の利害にとらわれず、「セルフメディケーションの健全なる推進」という大義の下で審査に臨んでいただくことを期待します。

さて、今回の審査会で最も議論に時間が割かれたのは、前回の審査会で不適正と判定された防風痛聖散製剤の広告のあり方でした。ちなみに、防風痛聖散製剤の承認効能は次のとおりです。

体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症：
高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症（副鼻腔炎）、湿疹・皮膚炎、
ふきでもの（にきび）、肥満症

これに対し、「おなかの脂肪を落とす」というキャッチコピーなどから受ける全般的な印象が許容されるか否かについて改めて議論になりました。問題の広告が「不適正」と判定された前回の審査会では、複数の委員による生活者感覚の発言として、「当該製品がダイエット薬との印象を強く受ける」との問題提起がありました。この見解は重く受け止めねばなりません。また、実際のところ、当該製品にダイエット効果を期待して薬局を訪れる客が多いことが紹介されました。
承認効能から見れば、この医薬品は、肥満症にはほど遠い健康な女性が、さらなるモデル体型を目指して服用するためのくすりではありません。広告がそのような適用を暗示しているのであれば、改善の必要があります。防風痛聖散製剤については、以前から各社が同様の指摘を受け、かなり改善されてきた経緯はありますが、販売ターゲット自体が誤った方向を目指していたなら、今後も何かと問題視されることになるでしょう。前回の審査会での厳しい判定は、その警鐘と捉えていただきたいと思います。

また、広告が不適正というわけではありませんが、これからのテレビＣＭと行政指導のあり方について考えさせられる事例がありましたので紹介します。ある点眼薬のＣＭの最後に、ピンポンという音声とともに時間にして1秒間ほど、次のような字句が画面に映し出されました。
・従来の一般用アレルギー用目薬を2日間位使用し、効果が得られなかった方
・アレルギー症状が続き、かつ炎症をともなう方
画面の文字はこれがすべてで、ナレーションも一切なし。映っている時間も短いので事前に見たときにはその存在にすら気がつきませんでした。視聴者がこれに気づいたとしても、録画して画面を静止させるか、よほどの速読力がない限り、すべて読み取ることはできません。よしんば読み取れたとしても、その意味するところが、この2項目に該当する人に対して、この製品の使用を勧めるのか、あるいは逆に使用してはいけないのかも明確ではありません。
なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか。推測するに、行政当局における当該製品の承認審査にあたり、当局から承認の条件としてこの文言を広告に付記するように指導され、メーカー側がその指導に（少なくとも形式上は）忠実に従った結果のように思えます。しかしながら、この表示は、いったい誰のためのものでしょうか。少なくとも生活者の利益になっているとは思えません。（広告を監視している人でもなければ、）まず読まないし、読めないし、読んだとしても意味不明なのですから・・・。これが行政と企業双方の形式主義や事なかれ主義の産物であるとしたら、むなしさだけが残ります。
この事例に限らず、15秒から30秒程度のテレビＣＭにおいては、画面の文字情報だけでいろいろな注意事項を生活者に伝えるのは無理があります。そんな情報提供を事故等が発生した際の行政や企業の免罪符にされたのでは、生活者はたまったものではありません。テレビＣＭでは、そのようなものの代わりに、薬剤師等の専門家への相談を促すことに重きを置いた方が、よほど実際的ではないでしょうか。

最後に、これからの広告審査会のあり方について私見を述べさせていただきます。昨年の後半から審査方法が改められ、現在は個々の広告について適正か不適正かを委員の多数決で判定する形になっています。すなわち、審査会による広告の評価はゼロ（＝適正）かマイナス（＝不適正）かで、プラスの評価は行われていません。
販売促進ツールとしての広告の側面だけをとらえれば、それでよいのかもしれません。しかし、広告のもう一つの効果として、適正使用や正しい取扱いに関する生活者の「啓発」という側面があるとすれば、プラスの評価があってもよいのではないでしょうか。
今回審査された総合感冒薬の広告の中に、風邪で寝込んだ母親のために小さな娘が台所にかぜ薬を取りに行くが、高い場所に保管されているので手が届かない様子を描写しているＣＭがありました。この場合で、もし、かぜ薬が子供の手の届くところに置かれていたら、広告の評価としてはマイナスだったところです。この広告では子供の手の届かないところに保管する配慮がなされていたので、評価はもちろん「適正」（＝ゼロ）でした。そして、さらに踏み込んで、この画面に「くすりは子供の手の届かないところに保管しましょう」という趣旨のテロップなどが付いていたとしたら、生活者の啓発に資する広告としてプラスの評価を与えて讃えたいところです。
新生広告審査会が、不適切な広告の是正のみならず、医薬品の適正使用等に関する啓発活動に資する優良広告の促進にも機能し、もってわが国におけるセルフメディケーションの健全なる推進に寄与していくことを願うものです。

以上