審査対象の広告素材を、「医薬品等適正広告基準」や日本OTC医薬品協会の「広告ガイドライン」等に照らして「違反」「注意」「話題」の判定を下すという従来の審査システムから、「広告ガイドライン」中の該当基準を明らかにしつつ、審査会委員全員の多数決(賛否同数の時は委員長判断)によって総合的かつ個別的観点から「適正」か「不適正」の判定を行なうという新しいそれに切り替わってから今回の審査会で3回目の審査会となった。予め実務委員会での判断結果を踏まえ、また協会の「広告ガイドライン」の規定事項に厳密に依拠しながらのこれまでの審査とは異なり、実務委員を含めた15名弱の委員全員の活発な意見交換に基づいての、審査素材1件1件ごとの挙手による審査は、当初多少の危惧を覚えていた私の予想とは異なりきわめて順調な進行を見せるようになっているのは、まことに慶賀のいたりであった。今回は20名近いオブザーバーの方もご同席頂けたが、会の進行がきわめて民主的かつ公正に行なわれていたことを目撃頂けたことと思う。
「適正」か「不適正」かの判断を下す時、正直に言ってその判断に迷う微妙な表現の広告素材が問題になることが少なくない。「こう表現して頂けたら、消費者にとってはるかにプラスになるだろう」と思われる広告素材について、「不適正」と判定してしまうことが果たして妥当かどうか迷う時、「不適正」という判断を下さなくとも指摘させて頂いた事項をきちんと記録にとどめ、該当企業及び関係者にご伝達頂けるという審査会の進め方には強い安心感と共感を覚えている。今回の審査会では提示されなかったが、審査会の判断に対する該当企業関係者からの反論・疑念・再審議の要望を含めて、OTC医薬品業界の企業並びに関係者の皆さまが審査会の結論に誠実に対応して下さっていることに対して心からの感謝と敬意を表したいと思う。
去年から今年にかけての冬の間にインフルエンザの大流行と、ノロウイルスによる食品中毒の連続的な発生がマスコミを賑わせている。加えて、同じく昨年からの風疹の大発生が、特に妊娠の可能性のある若い女性の間で大パニックを引き起こしており、不謹慎な言い方だが身近な日常生活での病気の三大話のようになっている。
これだけ衛生的な知識と観念が普及している中で、風疹はともかくとしてインフルエンザや食中毒が日常的に発生することに、人間の営みの限界を感じるのは私だけではないだろう。外出をすれば、帰宅後に丹念な手洗いとうがいを必ず実行し、食事の前や調理の際にはかなり念入りな手洗いや食器等の洗浄を行なっているはずなのに、日常的に大規模にそうした病気が発生するのを耳にする時、OTC医薬品を初めとする薬剤の力を借りての病気の予防という点についての啓もうがもっと強力に行なわれても良いように感じられてならない。
2月3日開催の本広告審査会を挟んでの1月末と2月初頭に掛けて医療に関する明暗両面のニュースが伝えられ、世間の大注目や大きな関心を集めた。現在のところOTC医薬品とはまったく無関係ではあるが、ぜひ記録と記憶にとどめておきたいと思い、新聞報道を引用しつつ敢えて言及させて頂くことにした。
1つは、わが国の理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若い女性をリーダーとする研究チームによる第3の万能細胞STAP細胞の発見のニュースである。それは、細胞に刺激を与え、様々な組織や臓器に変化する万能細胞を作る新手法をマウスの実験により発見したとのことで、1昨年ノーベル賞を受賞した山中伸也京都大学教授によって発見されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)やその後のES細胞(胚性幹細胞)に続く第3の万能細胞と呼べるものであるという。しかも、このSTAP細胞の作製方法はiPS細胞よりも簡単で効率が良いばかりでなく、iPS細胞の課題であるがん化のリスクも低いと見られているとのことであった。
既に人間の細胞でも成功しているiPS細胞と異なり、今のところではマウスの脾臓から取り出されたリンパ球を使い、酸性の溶液に漬けた後で特殊なタンパク質加えて培養する方法の他に、細いガラス管の中を通したり化学物質による刺激による方法もあるとのことである。このSTAP細胞を人間でも作れれば、iPS細胞と同様に医療や医薬(がんや老化の研究)への応用が可能であると期待されており、この分野での日本人研究者の世界的な業績に心からの祝意と敬意を表したいと思う。
一方、暗いニュースは、中国東部の浙江省や南部の広東省を初めとする複数の省における強力な鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)の感染者数や死者数の急増である。既に累計感染者数は300人弱、死者も80名近い数になっており、しかも1月31日から2月6日にかけての春節(旧正月)期間中の帰省や旅行による人びとの大移動による人から人への感染の拡大が懸念されているとのことであった。さらに韓国では、感染した鳥の死亡率が高い高病原性の鳥インフルエンザウイルス(H5N8型)が1月中旬に南西部の食用アヒル農家で検出され、ソウル周辺を初め全土へ感染が広がっているとのことであった。しかし、このH5N8型の場合には人への感染例は今のところ伝えられていない。中国ではこの鳥インフルエンザと同時に季節性インフルエンザが流行しており、この2つが混じりあって、人から人への連鎖的な感染力を獲得したり、新たなウイルス発生の危険性が懸念されているとのことである。
我が国では昨年4月に新型インフルエンザ対策特別処置法が施行され、都道府県知事は学校の休校や外出の自粛を要請できる権限が与えられている。ただ、今のところではH7N9型やH5N8型は対象外とされている。しかし、春節期間中の日本への旅行客の急増だけでなく、再び回復基調にある感じの中国人旅行客ばかりでなく、中国や韓国を初めとする東南アジアへ出かける日本人観光客・出張者も少なくないだけに、細心の注意が求められるところであろう。
疾病の新たな治療の可能性への期待が高まるような画期的な発見や発明が相次いでいる一方で、まったく想像もできなかった新たな病気も次々と発生している。人類が生物学的に可能な生存年齢まで無事に、健康に生きながられる時は一体いつ訪れるのであろうか。おそらく永遠に訪れることはないであろうと悲観的な思いに私が囚われるのは、大病を患った経験があるばかりでなく、日頃から不節制かつ怠惰な生活を送っているせいもあるとは思うのだが------
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